Kittyは映画が大キライ

私の私による私のための映画レビュー

『17歳のカルテ』 ホラー映画の方法論

17歳のカルテ』(原題 : Girl, Interrupted )

 ジェームズ・マンゴールド監督

1999年

 

現実が揺らぐ前半

この映画の特徴的な演出の一つは、前半部分で多用されるカットバックでしょう。基本的にはウィノーナ・ライダー演じる主人公・スザンナが誰かと対話しているシーンで使われていますが、言うなれば"応用的な"カットバックです。

通常のカットバックは、当然のことながら、同じ空間で向かい合う複数人に対して用いられる手法です。(電話という装置が作り出す「グリフィス的空間」についてはここでは割愛します。)しかしこの映画のカットバックは、現在のスザンナを映し、本来なら対話の相手を映したショットが来るべきところを、全く違う時空間に所属する人物を映してしまいます。つまり、スザンナが過去に対話した相手が突然出て来ます。現在のスザンナ→現在の対話相手→現在のスザンナ→スザンナの記憶の中の対話相手→過去のスザンナ→…というシークエンスです。カットバックによって、画面の中の時間が一気に過去に、スザンナの回想に飛ばされてしまう機能を果たしています。そして、回想から現在に戻る時も同じ仕組みで唐突に戻ります。

極めてわかりやすく、巧妙な演出ですね。薬や不安によって安定感を失ったスザンナの意識がよく現れています。このシークエンスによって、スザンナという少女が現実と向き合えていない、あるいは現実が混乱しているさまが表現されているのです。

 

“宣言する”クライマックス

 

前半で多用された、いわば現実と非現実(この場合は回想)の曖昧さを表現したカットバックですが、中盤にスザンナが病院での生活に馴染むとともに失われていきます。彼女がリサ(アンジェリーナ・ジョリー)らとの生活に居場所を見出していく様が、視覚的にも表現されていると言えるでしょう。それがだんだんと、リサたちのあり方への疑念がうまれ、今度こそ本当に自分のいくべき道を見出し始めます。それが結実するのが、リサとの対決のシーン。凄まじい執念で迫ってくるリサに対し、スザンナは"Because you're already dead, Lisa!"と叩きつけます。ここが素晴らしい。決別と再起の意思が言葉と行動によく現れています。そしてこのセリフの前後で場の空気も一変、いつも強気で圧倒的な存在感を持っていたリサが崩れ落ち、場の支配力が失われる。リサから自立するという力強い、スザンナの宣言です。

このあたりのシークエンスの素晴らしさは、適切な演出によって裏打ちされています。追うリサ、逃げるスザンヌという構図はホラー映画のそれに近いやり方です。ここのやり取りで、恐怖にも似た凄みが生まれます。そして"you're already dead"のセリフは、言葉によってあるべき姿を取り戻す営みです。悪魔祓いや悪夢振り払うときの構図に近いように感じます。

前半の現実と非現実が曖昧になる感覚、そしてクライマックスの逃走し、言葉によってあるべき世界に帰還するというシークエンス、全体としてホラーやファンタジー的な手法だと言えます。ホラーとはあってはならないものとの対決ですし、ファンタジーとは己の内面の克服です。そういう意味では、一人の少女が自分のあるべき姿を取り戻していくというこの映画のストーリーを表現するのにはこれ以上ないやり方でしょう。

 

アンジーの美、ウーピーの雄弁

 

この映画の魅力はこれだけではありません。俳優陣の演技も素晴らしい。

まずは何と言ってもアンジェリーナ・ジョリーです。演技賞を総なめしたらしいですが、本当に味わい深いです。時にハッとするほど美しいかと思えば、クライマックスや冒頭での打ちひしがれた様子。ベッドでの儚げな印象。危うさと繊細さを秘めたリサという人物をしっかりと作り込んでいます。ただ、ウィノーナ・ライダーが言ったように、これだけ強烈なキャラクターなら確かに目立ちますから、賞を取れたのも当然かも。ウィノーナの発言もただのやっかみとは思えないんですよね。彼女もスザンナの内面の変化を丁寧に掴んで良い芝居をしています。

ジャレッド・レトも、脇役ですが流石の実力を発揮していました。まさかの髭面で最初は気づきませんでしたが。

そして何よりウーピー・ゴールドバーグです。要所要所で圧倒的な存在感を示しています。彼女の演技が素晴らしいのは、不自然な表情を作ったり、芝居がかった仕草をすることなく、繊細な人物の内面を印象付けられることです。今回はスザンナを見守り、助言する看護師という役回りですが、スザンナを見つめる目は重厚で、言葉には表せない複雑な万感がこもっていました。"expression"ではなく"impression"による演技。ウーピーはやはり一流です。

 

邦題の謎

 

最後に邦題について。

劇中では一度もスザンナたちの年齢に言及されることはありませんでした。なのに17歳。ウィノーナはアラサーなのに。

これはどうやら当時流行りの「キレる17歳」と結びつけたかったらしいですが、全く下劣ですね。演出やプロットを理解していれば、「キレる17歳」とは対極にあるくらいの映画なのに、センセーショナルな宣伝のためにひどい邦題をつけています。昔からそうですが、日本の映画業界はその辺りどうにかならないもんでしょうか。