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Kittyは映画が大キライ

私の私による私のための映画レビュー

【NT Live】『ハード・プロブレム』 心理学は科学か?

舞台演劇 心理学

『ハード・プロブレム』
トム・ストッパード作
ニコラス・ハイトナー演出
オリヴィア・ヴィノール主演

 

イギリスのナショナル・シアターでの舞台公演を日本の映画館で観るという、ナショナル・シアター・ライブ。いままでは観損ねることが続いてしまったけど、この作品は心理学者の卵として見逃すわけにはいかなかったのです。

というわけで、今日はがっつり心理学の話です。


「ハードプロブレム」ってなに?


「ハードプロブレム」といえば、それは間違いなく「意識のハードプロブレム」、「心脳問題」の一部のことです。現代の心理学が直面しながらも、克服できていない最大の問題でしょう。ウィキペディアにもよくできた項目があるのですが、ここでは私なりに説明します。
「意識のハードプロブレム」を一言で言えば、「意識」ってなに?に尽きます。たとえばここにリンゴが置いてあるとします。リンゴをみて、あなたはきっと「赤い」ということがわかるでしょう。それではリンゴは本当に「赤い」のでしょうか。答えは否です。リンゴは単に「赤く見える」だけであって、リンゴ自体に「赤」という性質があるわけではありません。リンゴに反射する特定の波長の光が、我々に「赤い」という感覚を与えているのです。この主観的な「赤い」という感覚を得ることを、「『赤い』という『クオリア』が生じる」といいます。さらに踏み込めば、私が思う「赤い」とあなたが思う「赤い」は果たして同じクオリアなのでしょうか。ひょっとすると、あなたがおもう「赤色」は私が思う「緑色」かもしれません。受容している光は同じ、それに対するリアクションも同じですが、主観的な意識体験(クオリア)まで同じかどうかは検討しようがないのです。
これが「意識のハードプロブレム」です。クオリアとは何か、どうやって生じているのかという解けない問題のことなのです。

 

結局答えは出ない


そして結局わからないのが「意識のハードプロブレム」です。生理学者や物理学者の中にはこの問題を鼻で笑って、「心とは脳の働きだ」という人もいます。
心が働いている(と思われるとき)、確かに脳も働いています。脳内の血流、電気信号、化学物質の移動を調べたら、それはかなりの部分、心の働きと合致します。心理学的に言えば、「脳と心は強く相関している」わけです。しかし、これでは「意識のハードプロブレム」を解けたことにならないのがわかりいただけるでしょうか。それは一面では、「脳が心を作っている」のか、あるいは「(どこかにある)心が脳を動かしているのか」がわからないということです。因果関係がわからないし、恐らくは実証も出来ません。
クオリアの問題は、このところ何回目かのブームを迎えている人工知能の問題にも広がります。機械が人間の脳よりも優れた計算機である事は確かですが、果たして機械はクオリアを得ているか、機械に意識は生まれるか、という問題があるからです。これも答えの出ない問いです。

 

心理学が目指すこと

意識のハードプロブレムは解けません。意識とは、クオリアとは、心とはなにか。全くわからないというのが現状です。心理学者が心のなんたるかをわからないとはなんとも情けないことですが、仕方ありません。それが事実です。
それでもわかること、わかるかもしれないことがあります。文字を読むときに脳がどう動くのか、どうやったら物覚えが良くなるか、あるいは、なぜ映画は面白いのか。わからないからこそ、一縷の望みに賭けて立ち向かう。ありきたりですが、学問はヒュドラを殺すのに似ています。一つわかれば二つの疑問が新たに生じる。一つだけ違うのは、われわれは半神半人の大英雄ではないということです。学問に道は、ヘラクレスの難業以上に過酷な茨の道かもしれません。
それでも知りたい、学びたいと思うのが科学者です。いつか、何かが、少しでもわかるなら。われわれはそれに自分の全てをベットします。そして今日も世界中で、心理学者が頭を抱えてることでしょう。「心ってなんだ?」、と。