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Kittyは映画が大キライ

私の私による私のための映画レビュー

『フレンチアルプスで起きたこと』 圧倒的シュール

『フレンチアルプスで起きたこと』

 リューベン・オストルンド監督

2014年、スウェーデン

 

渋谷のユーロスペースで23日まで開催中の『スウェーデン映画祭』でかかっていた一本です。ブラックコメディという話でしたが、あんまりにもシュールすぎました。

 

音が引き出す異常な空間

 

冒頭。主人公一家がスキー場で家族写真を撮っています。カメラマンの指示に従って完成していく理想的な、円満な家族写真。非の打ち所がない光景です。それがカツン、という妻と夫のヘルメットがぶつかる些細な音で一気に崩れます。あまりに些細な音ですが、すべてが台無しになる瞬間を予感させるのには十分以上です。

 

この映画は終始こんな調子で、目立った内容もなく進んでいきます。必死に何もない、すべては順調だと取り繕う人々。なんとか冷静にことを収めようとしますが、どんどん狂っていきます。その様を演出する音の用い方が非常にみごとでした。淡々としたBGM、あるいは意味のない雑音が、唐突に別の音で途切れる。それはヘルメットがぶつかる音だったり、リフトの金具が引っかかる音だったりと様々ですが、観客が画面に集中していると、不意に乱入してくる別の音にハッとさせられます。。そのあたりの塩梅がとても魅力的でした。

キャメラもまた独特です。カットバックももちいられ、対話ややりとりに適切な緊張感をもたらしていたのですが、むしろ定点から捉えたショットが印象的でした。カットバックやパンのように視点が動くことはなく、ある一点から定点観測するかのようなシーンが多用されています。しかも、多くのシーンで登場人物の顔は見切れていたり、後ろ姿しか写っていなかったり、顔が写っていても鏡ごしだったりするのです。何事も起こっていないようでありながら、そこに確かに存在する動揺、押し込められた感情が切り取られているのでしょう。さらに言えば、音と同様、不意に挟まれるショットがあります。じっとみていて、そのまま続くのかと思ったら急に場面が変わる。そんなシーンも印象的でした。

 

どこまでもシュールでしたブラックな笑い

 

この映画は一応はコメディということなんですが、そのことを事前に知らなければ全く笑えない人もいるかもしれません。徹底して"笑えない"のです。描かれている事件はえげつないというほかない。キャメラも音響も緊張感を演出している。登場人物も真剣に事件に向き合っています。笑える要素がありません。

ここがきっとこの映画の肝でしょう。"笑えない"ことを笑わないと見てられないのです。笑えないということが笑える。一旦そのことに気づくと、高らかに響くオーケストラや、なんとも間の抜けた表情・言動が適切に配置されていることに気づくでしょう。淡々としてまじめくさった映像に介在する滑稽さ。そのシュールっぷりこそがこの映画の"映画の歓び"ではないでしょうか。しっかりと"笑いどころ"が用意されています。まあ結局笑えないんですが。

 

『ハッピーアワー』(2015年、濱口竜介監督)と

 

私のブログでは度々取り上げていますが、今回もこの映画との類似を感じました。笑えない出来事が丁寧に、淡々と描かれていて、みんな真面目に向き合っている。にも関わらず"笑いどころ"がしっかりと用意されていて、ああ、これはわらいとばすしていいんだなとなる。そんなところがよく似ています。もちろんどちらの映画もそれだけではない魅力を持っていますけれど。